オープン診療システム

医療を上手に利用する

多くの方が様々な目的で種々の医療機関を訪れます。診療科目の多い大学病院では、外来患者数が1日2千人を超える施設も珍しくないようです。何らかの健康問題を抱え不安を抱き専門的な対応を求めて医師を訪れると、‘患者’と呼ばれ診療が始まります。

診療は、医師の一方的な行為ではありません。患者さんからの情報提供が医師の判断の材料となり、患者の意向が医師の決断を左右します。
診療は、患者と医師の共同作業なのです。ですから、医療を上手に利用するという心得と振る舞いが診療をより良いものにしてくれるはずです。

初めて受診するとき

初めて受診する時に大切なことがあります。医師は診療の初めに“どうされましたか?”と尋ねます。その時、なぜ今日医師を訪ねることになったのかをまず伝えましょう。つまり、受診の動機をはっきりと率直に伝えることが大切です。受診の動機は次の三つに概ね区分できると思います。 


  辛い症状・気になる症状がある

  症状より健康不安が大きい

  診断済みの病気や検査結果についての疑問


症状が乏しくても‘兄弟が胃癌の手術を受けた’‘元気だった知人が心臓病で急死した’など周囲の出来事がにわかに不安を掻き立て、受診を思い立つことも珍しくありません。
そんな時、受診の資格に欠けるのではとの思いが生じ、医師への訴えが分かりにくくなりがちです。症状の有無に拘わらず、まず受診の動機や目的を率直に伝えてほしいのです。

次に、症状について詳しく伝えましょう。その要点は、


  どんな症状かを感じたままを伝える!

  いつから始まったのか?

  始まりは急にそれとも徐々に?

  症状があるのは四六時中か時々か?

  症状が強くなるきっかけは?

  症状が現れてからの変化は、良くなっている? それとも悪くなっている?

  生活にどんな悪影響があるのか?


伝えるべきことは沢山あるので、事前にメモしておくと役に立ちます。

受診を思い立った時、何よりも大切なのは医療機関の選択です。かかりつけ医にまず相談することをお勧めします。何でも気軽に相談できる医師、より専門的な診療が必要となれば他施設を紹介する姿勢が明瞭な身近な医師がかかりつけ医です。かかりつけ医は、医療を上手に利用するための指南役といえるでしょう。受診した経験を生かし、そんな医師を是非とも見つけて下さい。


検査をうけるとき

医療機関で行われる種々の検査は、血液・尿・組織などを採取して調べる検体検査,CT・超音波検査・血管撮影など体の各部分を画像化して形態の異常を調べる検査、心電図や肺機能など臓器の機能を調べる検査、消化管などの内側を観察する内視鏡検査などに区分できます。簡単な検査もあれば、高額の検査、辛い検査、危険を無視できない検査など様々です。

検査が行われる場面には、症状からある病気を疑い確かめる場合、すでに判っている病気の経過や治療効果を調べる場合、症状がなくても病気の早期発見や予防を目的に検査を行う場合(これが健康診断あるいは検診)などがあります。色々な場面で様々な検査が行われますが、いずれも今起きている異変を明らかにし、今後起きる異変を予測することが検査の目的です。

ある病気を疑って検査が行われるとき、病気であっても検査が陰性となる不正確さ(偽陰性)と、病気ではないのに検査が陽性となる不正確さ(偽陽性)が伴います。病状と検査結果に矛盾があるときには、再検査や別の検査が考慮されます。患者さんに健康不安が強いと、可能性の低い病気にも過剰な検査が行われがちです。経過を観察し病状を見極めることが、しばしば検査に優ります。

医師は、状況に応じて検査の必要性を吟味し、相応しい検査を選択し、正確に安全に検査を行わねばなりません。検査を受ける側は、そんな医師の頭の中をのぞくつもりで医師の説明を聞いて下さい。疑問があれば遠慮なく質問すれば良いと思います。納得して検査を受けるために!検査の結果について無用な不安と間違った安心を抱かないために!そして検査結果をその後に活かすために!

かかりつけの医師がいる場合は、他施設で受けた検査の結果をかかりつけ医に是非伝えましょう。かかりつけ医が幅広く相談を受けるときの大切な情報となります。またかかりつけ医は、必要と判断したCTやMRIなどの精密検査を他施設で行えるように手配することができます。検査の結果を取り寄せ説明を行い、その後の対応について助言ができます。

かかりつけ医は、地域に備わる医療の窓口でもあるのです。


治療をうけるとき

多種多様な病気に、服薬・注射・カテーテルや内視鏡による治療・手術など様々な治療が行われます。今回は、皆さんが治療を受ける時、大切なことをお話します。
治療は病気やけがを治すことですが、煩わしさ・苦痛・費用など好ましくないことも伴います。副作用や合併症で体調を崩す危険を無視できない治療もあります。

また、治療を受ける皆さんには個性があり各人各様のライフスタイルがあります。ですから状況が同じでも、治療が生活にどのように影響するのかは各人各様です。
そんなことを考えると、治療にあたって医師から詳しい説明を受け、自身が思案することも必要だと判るでしょう。専門的な内容を完璧に理解する必要はありません。治療が必要であると納得するための情報、自分に相応しい治療を選択し生活と両立させるために必要な情報、それを医師から引き出し理解することが大切です。

医師の説明を聞く時、病気の治療について次のようなことを頭に置いておくと、理解が深まり、的を得た質問ができると思います。治療をいま受けている方は具体的な状況に照らし合わせ、不安や疑問を整理してみて下さい。

  • 治療の前に診断がある。診断とは今の病状を知り今後を予想すること。
  • 治療の先には目標がある。目標は生活の質を改善することと寿命を延ばすこと。
  • 病気には自然の経過があり、治療はそれを好転させるもの。自然経過が良好なら治療が不要の病気もある。
  • 無症状で自覚できない病気もある。放置すると危険なら治療が必要
  • 同じ病状にしばしば複数の対処法がある。患者さんの意向が選択を左右する。
  • 治療をすればいつも最良の結果が保障されているわけではない。


複数の施設で治療を受けている方にアドバイスをします。かかりつけ医と目される医師がいるなら、是非他施設での治療のことを伝えておきましょう。かかりつけ医は、必要なら他施設にあなたの情報を提供します。かかりつけ医に、あなたの健康に関わる情報が集まり、必要なときには他施設に情報が提供されるといったやり取りが、より良い診療に繋がります。


健康診断をうけるとき

症状がなくてもあれこれ検査を受け健康状態を調べ、病気の早期発見や予防に役立てる機会が健康診断です。症状があり体調不良を感じる時は、健康診断ではなく医療機関で診察を受けるのが適切です。そこでは、症状から疑われる病気を診断するために必要な検査が行われます。

健康診断の主な役割は、無症状で経過し、やがては重大な事態に至る可能性がある体の異変を察知することです。ですから主な関心事は、死亡原因の6割を占める三大死因つまりがん・心臓病・脳卒中なのです。がんはより早期に診断すると、負担の少ない治療で治る可能性が高くなります。心臓病・脳卒中の危険を減らすには、高血圧・糖尿病・高脂血症といった余程のことがないと自覚症状の乏しい病気を放置しないことが大切です。そこで健康診断が役立つのです。

健康診断で最も大切なことは、結果を正しく理解しその後に役立てることです。健康診断の結果は、しばしばコンピューターで処理され、画一的に判定されたものが書面で報告されます。それでは結果の真意が伝わらず、不用意な安心と無用な不安を残すことにもなります。血液検査値が基準値より高くても、超音波検査で所見があっても、心電図が異常でも、即病気を意味するわけではないのです。結果を検討し個別に判断しなければ、その後の対応に結びつきません。その時役に立つのが、何でも相談に応じてくれるかかりつけ医です。健康診断の結果を持参すれば、あなたを良く知っている医師からあなたに相応しい助言を聞くことができるでしょう。

健康診断を受ける機会は、職場や自治体が提供するもの、個人が選択するものなど様々です。一方、既に診断されている病気、治療を受けている病気があれば、関わった医療機関には検査結果などあなたの健康情報が保管されています。無駄を省き必要な検査を適切な間隔で受けようと思うなら、健康診断を受ける前にかかりつけ医に相談すると良いでしょう。健康診断は、皆さんの健康でありたいという願いに応える医療サービスとも言えます。でも本来曖昧で不確かな健康は、自分らしく自由に生活するために大切なものです。健康のために生活があるのではないと思います。「健康を追い求めるという病気」にも是非注意して下さい。


‘がん’が心配!

現在、日本人は一生のうちに、2人に1人が‘がん’を経験し、3人に1人が‘がん’で亡くなっています。そんな身近な病気 ‘がん’を不安に思う皆さんに知っていただきたいお話です。‘がん’の別名は‘悪性腫瘍’です。‘腫瘍’とは無秩序に細胞が増え続ける病気です。‘悪性’とは、最初に腫瘍が生じた場所(原発巣)からやがて身体の他の場所に拡がる、つまり浸潤し転移するという性質です。悪性の性質を発揮し健康を害し命を脅かす悪性腫瘍が ‘がん’という病気です。

病気を心配するなら一番に予防ですが、‘がん’の予防は、一筋縄とは行きません。国立がんセンターが科学的根拠に基づく「がん予防8カ条」を発表しています。インターネットで検索可能、是非参考にして下さい。

‘がん’を防ぐことが容易でないとなると、最も大切なのが早期発見です。より早期に発見できれば負担の少ない治療で治る可能性が高くなります。症状がなくても安心できないのが‘がん’という病気です。無症状の‘がん’をより早期に発見する機会が‘がん検診’です。検診では、症状のない一見健康な人にも検査を行うのですから、多くの人が患う‘がん’、簡便で安全な検査で診断可能な‘がん’、見つけたら有効な治療が行える‘がん’が対象です。‘検診向きのがん’が‘心配向きのがん’とも言えます。現在、市町村では胃・大腸・肺・乳腺・子宮に対して検診が行われています。

症状があるのに受診せず、‘がん’発見の機会を逃すのは残念なことです。‘がん’が多くなる50歳前後からは、気になる症状に対して‘がん’を念頭に置いた検査を受けることが大切です。症状が‘がん’由来でなくても、偶然‘がん’が見つかる機会となります。

特定の‘がん’になり易い人がいます。その原因を危険因子、その人たちを高危険群と呼びます。高危険群と判れば、定期的に検査を行い早期発見に努めることができます。喫煙と肺がん、肝炎ウィルスと肝細胞がん、ピロリ菌と胃癌などがこれに当たります。

不安という感情には、将来の好ましくない事態への心構えの意味があり、大切なものです。過剰な不安は考えものですが。‘がん’の不安を、是非とも適切な行動に結び付けて下さい。


患者さんは依頼人

皆さんは、健康上の悩みや不安を抱え、専門的な対応を求め医師を訪れます。そして、皆さんの健康問題を見定め解決に導くことが、診療という医師の仕事です。この時患者さんと呼ばれる皆さんは、健康問題の解決を医師に求める依頼人なのです。では、診療の手順を追って依頼人の心得について述べます。

医師との面談ではまず、なぜ今日受診したのかを率直に伝えて下さい。医師が受診の動機を理解し対応できるか否かが、依頼人の満足度を左右します。

症状が受診のきっかけならば、詳しく症状を説明しましょう。健康不安が主な動機ならば、不安を抱いたいきさつや心配している具体的な病名など、遠慮せず伝えて下さい。既に判っている病気についての相談が目的なら、これまでの経過が大切な情報となります。

医師は面談を通じて、病気を探り、必要なら検査を行います。辛い検査や危険な検査もあります。検査が提案された時、事前に医師はどんな病気・異常を考えているのか、検査で何が判りどう役立つのかについて説明を受けましょう。

病気が見つかれば、治療に移ります。放置してよい病状も少なくありません。その後の経過を好転できるなら治療を行います。症状があっても病気を特定できないこともあります。その時は、急を要する重大な病気でないことが確かめられていれば一安心です。症状が無くても、将来の危険が大きいなら治療が必要です。治療を受けるにあたって、治療に先立つ診断、治療の目標と勝算などについて理解しておきましょう。

医師は病状を聞き侵奪し必要な検査を行い、そして病状を判断し何をすべきかを決断します。依頼人の役割は、医師の判断を了解し、自身の意向を決断に反映させ、診療に積極的に関わることです。医師はその手助けをしなければなりません。身近に居て依頼人の手助けをする医師、いわば医療の指南役がかかりつけ医です。

皆さんは、自分の意思と判断で、必要な物を買い、様々なサービスを利用し生活しています。患者さんになると、そんな日常とはしばしば様子が違い控えめです。医療を利用するとき、受け身になりすぎず、自身の意向を医師に伝え、診療に参加する姿勢を大切にして下さい。‘患者’を‘依頼人’と呼ぶことに、そんなメッセージを込めています。


診療のあり方

診療の根幹は、健康上の問題を解決すること

診療の根幹は、健康上の問題を解決することです。経営コンサルタント諸氏は、‘問題とは現状と目標の間のギャップであり、問題解決とはそのギャップを埋めること’ と説明します。現状を把握し評価することが診断であり、より好ましい状態を見定めこれを治療目標とし、治療を行います。その過程で必要な情報収集を行う主たる手段が、種々の検査です。

より好ましい状態を見定め治療目標とするとき、何も手出しをしないときの経過(自然経過)が良好であるなら治療は不要です。もし症状が強ければ症状を和らげる処置のみ行います。短期間で自然に解決する問題、検査で異常値・所見があっても実害がなく放置してよい場合も多いのです。投薬・処置・手術など医師による介入は最小限が原則です。

治療の目標は、 ‘生活の質(QOL:quality of life)を高めること’ ‘寿命を延ばすこと’ に集約されます。 延命が困難なときには、QOLが最大の関心事となります。延命が可能なら、QOLの低下をある範囲で我慢することもあります。がんの診療を例にとるなら、死期の迫る末期がんに対して、辛い症状を緩和し少しでも安楽な生活を考えることが前者に当たります。進行がんに対して根治の可能性があるなら、術後のQOLをある程度犠牲にしても大きな手術を行う場合が後者に当たります。

治療目標の根本に、生活の質の改善と寿命の延長を置いておくにしても、実際の診療場面では、診断された疾患をどう取り扱うか、疾患に対する治療目標をどこに置くか、それが当面の課題となります。医師が手出しをしなくても自然に短期間によくなる病態もしばしばです。 治療を受けるとき、治療目標が理解されていることは必要なことなので、疾患の性質によって異なる治療目標を以下に説明しておきます。

治癒

疾患を完全に解消する。 → 良性腫瘍の切除・胆嚢結石に対する胆嚢摘出

緩解

疾患の徴候は認めないが、治癒ではなく再燃の危険がある。 → 潰瘍性大腸炎

コントロール

治療継続を要するが、疾病は危険域を脱し許容できる状態にある。 → 糖尿病・本態性高血圧

対症療法

疾病自体はさておき、症状の軽減を図る。 → 感冒・末期がん


生活の質とは

医師が患者さんに対応するとき、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることが大切な治療目標の一つであり、最大の関心事の一つです。しかし、QOLを評価する決まった基準はありません。いかに自分らしく生活できるか、その自由度が生活の質を測る尺度になるのだと思います。

‘自分らしさ’を大切に思うなら、年齢・性別・性格・生活環境・仕事・趣味さらには人生観・価値観が、治療するのかしないのか、何を治療目標するのか、どんな治療方法を選択するのかなどに影響を及ぼします。経過が長い病態や負担の大きな治療を行う場合ほど、このことに配慮しなければなりません。


診療で欠かせないのが、不安・疑問に応えること

診療の根幹は、健康上の問題解決と説きました。そんな診療に欠かせないのが、診療を進める中で生じる不安や疑問への対応です。経過が良好で短期間の場合は、健康上の問題を解決すれば不安や疑問は解消するでしょう。経過が長く様々なことが起きる場合には、付きまとう不安や疑問に応えることが、医師と患者さんの信頼関係を築き円滑に診療を進める上で不可欠なことです。

医学を学び医療現場で経験を積んだ医師の知識・技術・経験・判断力による専門的パフォーマンスが、健康上の問題を解決に導きます。一方、患者さんの抱く不安や疑問に応えるためには、優しさ・思いやりを込めたサービスマインドが必要です。診療の質は、この二つの要素で評価することができます。専門的パフォーマンスが優れていても、サービスマインドを欠いていれば、患者不在と非難されることもあるでしょう。

その逆は、ごまかしの医療です。

がんという病気のこと

‘がん’とは

人体を構成している細胞は、およそ60兆個と言われています。分裂によって新しい細胞が生じる一方、古い細胞は死滅し、増えすぎず減りすぎず適当な数を保っています。細胞の中には、細胞の形や機能などに関するあらゆる情報が記録されている遺伝子という部分があり、これによって細胞は自らを制御し、周囲組織とうまく調和を保っているのです。この遺伝子に何らかの原因で異常が生じると制御不能となり、その結果自分勝手に増殖する細胞が発生することがあります。これが‘腫瘍’という病気です。

腫瘍を診断するときには、悪性・良性の判断をします。発育速度が速く転移や浸潤によって死に至らしめる性質を‘悪性’と称し、悪性の性質を持った腫瘍が‘悪性腫瘍’であり、悪性腫瘍のことを‘がん’と総称します。

‘がん’は様々な臓器組織に発生します。その由来から、‘がん’を‘癌腫’と‘肉腫’に区別します。‘がん’の組織像(顕微鏡で観察した像)は多様で、性質も様々です。同じ臓器組織からも異なる組織像・性質を持った‘がん’が発生します。‘がん’に対する治療は、その性質と進行の度合いに相応しいものを選択しなければなりません。


‘がん’がみつかるきっかけ

‘がん’は、内視鏡検査・超音波検査・CTスキャンなど検査を行うことによって発見されます。ですから、「‘がん’をいかに見つけるのか」は、「どんなきっかけで検査が行われ、‘がん’が見つかるのか」という問いに置き換えることができます。どんな場合にどのような検査が行われ、‘がん’が見つかるのかを知っておくことは、大変役に立つことだと思います。

‘がん’が見つかるきっかけを、以下の4つに分けることができます。


  • 症状の有無に関わらず検診・人間ドックを受ける。
  • 症状があり必要な検査を受ける。
  • 特定の‘がん’に罹りやすいと診断され検査を受ける。
  • 偶然‘がん’が見つかる。


がん検診・人間ドックは、症状の有無に関わらずいろいろな検査を受ける機会であり、‘がん’が発見されるきっかけとなります。がん検診には、自治体や事業主が地域住民全体あるいは事業所職員全体の健康管理を行うという目的があり、特定の‘がん’に対して費用対効果を考慮した検査が行われています。これに対して、個人が思い立って健康状態をチェックする機会が人間ドックです。

症状があって医療機関を受診した場合に、医師は症状に対して可能な限り具体的な病名を思い浮かべた上で、正しい診断を下すために必要な検査を行います。検査結果によって、思い浮かべた診断名を取捨選択して行くのです。胃癌を疑えば内視鏡検査、膵臓癌を疑えばCTスキャンという具合です。

特定の‘がん’にかかりやすい人がいます。その原因を危険因子、‘がん’にかかりやすい人たちを高危険群といいます。特定の‘がん’にかかりやすいと判っていれば、定期的に適切な検査を行うことで早期発見が可能です。 肝細胞癌による死亡者数は、現在年間3万5千人に達していますが、そのうち90%がB型およびC型の慢性肝炎・肝硬変患者です。つまりB型とC型の肝炎ウィルス感染は、肝細胞癌の危険因子なのです。肝細胞癌の高危険群と診断されれば、3~4ヶ月毎に超音波検査あるいはCTスキャン、腫瘍マーカーの測定による定期検査を行うことが推奨されます。

他の病気に対する検査や治療をきっかけに偶然‘がん’が見つかることがあります。風邪でも胃の調子が悪いと感じることがあります。それをきっかけに内視鏡検査を受けたところ、早期胃癌が見つかったなどということがあります。 胆石で胆嚢を摘出したところ比較的早期の胆嚢癌が見つかることもあります。胆嚢癌が症状を現したときには、治すことが難しいことが多いので、幸運なケースと言えます。‘がん’の多くは相当進行しないと症状を現しません。‘がん’が発見されるきっかけとなった症状が、実は‘がん’由来でなかったという場合も多いのです。


検査の目的と正確さ

‘がん’に関わる検査は、「特定の‘がん’に対して、その‘がん’があるのかないのか」を調べる検査「その‘がん’はどんな性質を持っているのか」を調べる検査「その‘がん’はどの程度進んでいるのか」を調べる検査などに区別できます。

「‘がん’があるのかないのか」がまず関心事となりますが、検査の内容によって、‘がん’の有無を診断する正確さが異なります。そして、正確さには、‘がん’があった場合にそれを正しく診断する正確さと、‘がん’がなかった場合にないと言い切れる正確さの二つの側面があります。 つまり、検査には、‘がん’であっても検査が陰性にでる不正確さ(偽陰性)と、‘がん’ではないのに検査が陽性にでる不正確さ(偽陽性)があると言うこともできます。検査を受けるとき、検査結果を聞くときには、この正確さ・不正確さを知っておく必要があります。

大腸癌の検査に、便潜血反応という検査があります。この検査は、大腸癌の病巣が進行し、くずれて少しずつ出血する状態を、便中の微量な血液を検出することで見つけようとするものです。便潜血反応は、症状のない人から出血しやすい進行した大腸癌を見つけようとする場合の一次検査です。 しかし、糞便には生理的にも微量の血液が混入するので、大腸癌でなくても潜血反応が陽性にでることもしばしばあります。ポリープや早期癌では、出血することは少なく潜血反応は陰性にでることが多いのです。一次検査である便鮮血反応が陽性になると、大腸内視鏡検査によって本当に大腸癌かどうかを確かめる必要があります。 大腸内視鏡検査は多少大変でも正確な検査であり、早期癌やポリープも診断することができます。便潜血反応についてこのような理解ができると、症状から大腸癌が疑われる患者さんや、早期癌やポリープも含めて大腸の正確な検査を受けたいと考える方に必要な検査は、便潜血反応ではなく大腸内視鏡検査であることが納得できると思います。

完璧な検査はありません。検査の正確さや負担を考えた上で、目的に応じた適切な検査を受けること、受けた検査の結果を正しく理解し対応することが大切です。


がん診療で大切なこと

‘がん’が発見された後の診療は、しばしば長い経過をたどります。その中で、がん患者にとって大切と思うことがあります。


  • 自分らしく生活し、自分の人生を全うするために必要な情報を曖昧にしておかない。
  • 治療の成功がいつも保障されているわけではないことを知っておく。
  • 難しい決断を迫られたときどうするか。


がんの長い診療過程では、患者さんと家族が知っておかなければならないことが沢山あります。医師の姿勢や説明の仕方が不適切な場面も少なくないでしょう。一方、聞く側に自分のことは知っておきたいという意思がなければ、理解が曖昧なまま事が進みます。専門的な内容を完璧に理解する必要はありません。納得して診療を受けるために必要な情報、診療と日常生活・仕事を両立し自分らしく生きるために必要な情報、それを医師から引き出し理解するのです。人それぞれ必要な情報は随分違うと思います。医師は、聞く側のそんな思いをくみ、理解することを手助けしなければなりません。

‘がん’の治療は、進行度と性質に応じて過不足なく行うことが原則です。一方、治療の成功がいつも保証されているわけではありません。大きな手術を受けても再発することは珍しくありません。辛い化学療法を受けても効果がない場合もあります。治療の副作用・合併症で大変な事態になることもあります。そんな好ましくない経過への対応には、医師と患者さんが情報をやり取りし診療を積み重ねる中で築いた信頼関係が不可欠です。

がんの診療過程では、治療方針など難しい決断を迫られる場面があります。決断に際して知っておくべき情報は、一つ一つの選択肢について、それがもたらす最良の結果と最悪の結果、その結果が生じる大まかな確率です。決断の方法は、最良の結果を期待するか、最悪の結果をできるだけ避けるか、無難なところを選ぶかに分かれます。楽観的・悲観的・その中間ということもできます。決断には、年齢・性別・性格・生活環境・仕事・趣味さらには人生観・価値観が影響するでしょう。自分らしく決断するしかありません。そんな理屈通りには決断できないと言われれば、それも当然のことだと思います。そんな時欠かせないのが、傍らに居る医師の助言です。本当に迷ったら、主治医に『自分だったらどうします』『あなたの家族だったらどうします』と、尋ねるのも良い方法だと思います。

診療には、医師と患者さんの間で情報をやり取りし決断する場面がつきものです。患者さん個々に、情報を必要とする度合い、自身のことは自身で決める自律性に違いがあります。その違いに応じて、医師と患者さんのやりとりが異なってきます。いくつかのパターンがあるのです。


インフォームドコンセプトからみた患者さんのタイプ

自立しているタイプ
自分のことは自分できめる。そのために情報が必要。医師は情報を提供し、助言者となればよい。

自立したいタイプ
情報は求めるが、自分で決めることは難しい。医師は傍らに居て支援する。

お任せタイプ
情報を求めない。すべてお任せ。医師はパターアナリズム(父権主義)を実践。

好々爺タイプ
姿勢はあくまで受身で自然体。人様お世話になりつつ神様に生かされているとでも言いたげ。

不安と不信タイプ
はじめから病院・医師を信用していない。まずは信頼関係の構築が最優先。


患者 ⇔ 医師関係のパターン

医師主導型

患者主導型

契約締結型

日常型

健康診断の功罪

健康診断では、症状がなくても様々な検査が行われます。その時、‘がん’は大きな関心事の一つです。そして、‘がん’を少しでも早期に発見し治療するという利点が強調されます。ここでは、普段触れられることの少ない健康診断の難点を述べることにします。

症状もなく元気に働いている人が健康診断を受けるとき、‘がん’に関係して次のような不都合が起こる場合もあるのです。


  • ‘がん’の疑いが持たれ、いろいろと精密検査を受けたが、‘がん’ではなかった。
    その場合、‘がん’でなかったことに安堵する人も少なくありませんが、精密検査には費用も時間もかかるし、もし検査の合併症で健康状態を害することがあったら大変です。

  • 健康診断を受けた後に症状が出た。健康診断で問題ないと説明を受けたために、病院に行かず病状が進んでしまった。健康診断で行われた検査が偽陰性であった場合、問題ないとされた内容を正しく理解していない場合に起こり得る不都合です。

  • 健康診断で見つかるのは、‘治るがん’ばかりではありません。
    進行した‘がん’、性質が悪い‘がん’、そして不治と宣告されたなら生活が一変します。 残された時間を大切に生きようと考える人ばかりではありません。 そんなことは知りたくなかったと思う人も少なくないでしょう。


健康診断に‘がん’に関わるこのような不都合があっても、健康診断の利点を否定するものではありません。検査のことを知り、検査結果を感覚的に受け止めず理解し、健康診断の利点を生かしていただきたいと思うのです。


GSECフレーム

専門分化した診療の問題点

医療は、臓器別・疾患別に専門分化し進歩してきました。専門分野の修練を積んだ医師が高度医療を支えており、多くの医師が専門分野に特化した診療を行なっています。マスコミは特殊技術を習得した医師の活躍を盛んに取り上げ賞賛します。

専門分化した医療には不都合もあります。本来、診察の最初には、‘この患者さんに疾患はあるか、あるならそれは何か’と広く問いかけねばなりません。‘胃癌はないか’‘膠原病はないか’といった専門分野や特殊技術が患者さんを選別するような設問に、‘胃癌はありません’‘膠原病ではありません’‘当診療科が関わる問題はありません’と答えて済ますのでは解決に至りません。複数の疾病を有する場合には、右往左往しなければならず、優先順位を誤ることもあるでしょう。


診療を支える4つに要素・・・GSEC

専門分化した医療の利点を活かし不都合を補おうと意図するなら、医療を提供する側も受ける側も、 以下の4つの要素GSECを念頭に置いて行動しなければなりません。


General:専門分野に限らない総合的な診療

Special:専門分化した診療

Expert:より特化した分野で卓越した技能を発揮する診療

Community:各々の特徴・能力を活かした地域医療機関の連携診療


多くの医師は、Special/Expertを好み、General志向が希薄です。 自身でGeneralを実践しなくても、自身にGeneralの臨床能力が乏しくても、GSECのGを念頭に診療にあたれば、患者さんの満足度は向上することでしょう。医療に何かを求めて目前にいる人に対して、医療サービスの窓口たらんとする医師の姿勢が、広い意味でのGeneralです。

医療を受ける側も、実はSpecial/Expert 志向が強く、そのために不都合を招く場合があります。 Special/Expertは、特化した技術が患者さんを選別し、当てはまらなければそれで対応は途切れます。自身が抱える健康問題が特定されるまでは、Generalに力点を置いた診療が相応しいのです。

医療施設の管理者にとっても、GSECは役に立つ視点です。満足度の高い診療体制を敷く骨組みになり、医師をはじめとした人材を育成評価するときの多面的な評価尺度にもなります。

当たり前のことなのですが、診療にはGSECという4つの要素の調和連携が必要です。そんな考え方の大切さを銘記するため、私はこれをGSECフレームと呼ぶことにしています。